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特集 「簡易図上訓練」の実施と訓練用「被災シナリオ作成」の方法



1. “自分が”受けられる支援/すべき対応を考える〜必要な情報の収集
「被災シナリオ」を書き進めていくと、自分が受けるであろう「被害」に加え、そうした被害に対して、自分はどのような行動をとればいいのか(とれるのか)、またどのような「支援」(災害救援サービス)が受けられるのか、といった情報が必要になってきます。
自分が受けるであろう支援として、まず思い浮かぶのは、毛布や水・食料といった「行政」による公的な救援物資でしょう。公的な災害救援サービスについては、各自治体が策定している「地域防災計画」に記されています。この報告の「災害応急対策業務」の部分には、各自治体が「どのような物資を、どこに、どのくらい備蓄しているのか」、また、そうした物資の搬入先となる「(公的)避難所をどこに設置するのか」が記されています。
しかし、この報告書の記述から、実際に自分が直接受けられる支援内容や、自分がとるべき具体的な行動を知ることはできません。もし、自分の地域の自治会・町内会、あるいは避難所に指定されている小・中学校などで、独自に作製している防災マニュアル/パンフレット(例えば「自主(地域)防災マニュアル」「避難所運営マニュアル」など)があれば、ここから自分に直接かかわってくる情報を引き出すことができるでしょう。
ただ、「地域防災計画」の方は、自治体の庁舎や地域の図書館などで入手・閲覧できますが、こういった地域独自のマニュアルは、行政の防災関係セクションが把握していない場合もあります。地域の自治会長や小・中学校などに直接尋ねてみたほうが早いかもしれません。
2. シナリオの信頼性を高めるために〜「専門家」の知識の活用
このように、地域レベルの具体的な情報を盛り込んでいくことによって、よりリアリティのある「被災シナリオ」が書けますが、これに「専門(家)」の知識を加えることができれば、さらに信頼性の高いシナリオを作成することができるでしょう。例えば、時代劇のシナリオを作成する場合、時代考証(侍の道具・立ち居振る舞いから主従関係・社会規範まで)に、歴史家や武道の達人が必要になりますが、これと同様に「災害ドラマ」のシナリオ作成では、市町村の防災担当者や消防・警察職員、建築士・大工さんといった専門家の方たちの知識が有用になります。「家屋倒壊〜救出」などのシナリオを書く場合は、建物の構造に詳しい建築士や大工さん、救出の資機材の扱いに詳しい近隣の日曜大工愛好家、さらに専門性の高い地元建築業者さん……といった具合です。
これらの専門家も、できるだけ地域の中で探してみて下さい。そのほうが、地域性を踏まえたより具体的なアドバイスをもらえる可能性が高いからです。こうした専門家に直接アプローチできなければ、インターネットのサイトを探すか、図書館や行政機関の資料室に行って情報を得るなど、工夫してみてください。
以上のような情報収集作業は、非常に面倒くさく感じられるかもしれませんが、自分の被災状況を客観的にシミュレーションしていく上で、とても重要な作業になります。また、自分の地域で防災にかかわる人たちを探し、現状を確認していくという作業は、現実に自分の防災資源を増やしていく(危機管理能力を高める)ことにもつながり、それ自体が、重要な防災活動になるとも言えます。
3. シナリオの展開〜時間と空間の広がりに合わせた情報収集を
ところで、例えば「夕方に被災」という設定で、〔例1〕「家族の初動措置」を考える場合、家族の中で、お父さんと息子さんがまだ会社・学校にいることが予想されます。その場合、父と息子は、その時間に、自分が、どこで、どのような状況に置かれているのか、「家の間取り図」とは別の「舞台」=地図を設定する必要が出てきます。
その場合には、お父さんと息子さんは、その時間・場所で自分がどのような状況に置かれ、どう対応するのかを、「家の間取り図」とは別に、適当な地図(=舞台)を用意して「被災シナリオ」を書き、検討してみる必要があります。そうして、その検討結果を家庭にもち帰って、そこで初めて「家族が安否を確認し合う場面」のシナリオが書き始められることになります。
このように、「被災シナリオ」の中の一つの場面は、実は延々と連鎖していて、その人や組織が属する社会の全体にまで、考察を拡大していくことが求められます。お父さんの「会社での被災〜帰宅=再会」というシナリオを書く際に必要な地図(=舞台)は、「会社の部屋割り」とか「営業得意先まわりの管轄図」とか、帰宅のためには「地下鉄・JR及び国道・県道路線図」などの数十kmの範囲にわたる道路地図などが考えられます。