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7-4 訓練方法




コラム 災害時のこころのケア --子どもの場合--

阪神・淡路大震災および地下鉄サリン事件以降、PTSD(外傷後ストレス障害)ということばが知られるようになりましたが、これは、生活上の体験が原因となった、重いこころの傷(トラウマ)によって起こる、精神性の障害のことです。災害・事故・犯罪など、こころの傷を受けた場面が突然脳裏によみがえって不安・不眠などを引き起こし、そういった心身の影響から、社会的・職業的な生活に困難をきたすようなケースをさします。また、不安・睡眠障害・抑うつ・何らかの身体症状があっても、社会的・職業的な機能低下を伴わない場合は、PTSR(外傷後ストレス反応)と呼ばれることがあります。
いずれにせよ、事故・犯罪の被害者・目撃者などと同様に、災害の被災者もまた予期せぬつらい出来事に対して、何らかのこころの傷を負ってしまう可能性が高いといえます。グラフ1が示しているように、阪神・淡路大震災においても、家屋の喪失や、家族を亡くすといった人的な喪失が大きければ大きいほど、こころの傷も深まる傾向にあることがわかります。また、そのような大きな被害を受けなかった場合でも、地震の揺れによる恐怖感を抱え続ける人が多く存在します。このように、大規模災害時には精神面のサポートも視野に入れて、避難生活を考える必要があります。
特に子どもは、自分の恐怖体験や友達や家族・これまでの生活を失った喪失感などをうまく表現することができません。親の不安・ストレスの影響も見過ごせません(グラフ2)。阪神・淡路大震災における子どもの心理的影響に関する調査によると(被害の程度がひどかった地域の児童12,465人の保護者から回答)、震災直後にのみ症状を示したのは児童全体の58.3%、6か月後も症状が持続している児童は23%にのぼっています。中でも「こころの健康度要注意児童」(ハイリスク児童)は全体の11.6%で、これは6か月後でも5.9%となっています。そして、直後には症状がなかった、もしくは一時的に収まっても、数か月たってから何らかの症状を示す児童も18%いました。
このことから、長期的な視点での被災者のこころのケアについての支援体制が必要であることがわかります。そしてボランティアや専門家による支援も重要ですが、子どものこころのケアで重要な場所は学校となります。
1988年に起こった、アルメニア地震における被災児童のこころのケアを行った専門家も、下記のように述べています。「私たちは、子どもに対する災害救援活動は長期的に学校で行われるべきだと考えています。診療所などに拠点をおいて、そこからアウトリーチする(被災者のもとへ出かけること)という手もあるでしょうが、全世界的にみても私の知る限りうまくいっていません。精神保健の専門家はやはり学校に配置すべきです。そこから親たちや子どもたちに、学校で授業のある日にアウトリーチするようにすれば、無用な偏見やレッテル貼りを避けることができるでしょう。こういった活動を何年間か学校で継続することです」「私たちがアルメニアで真っ先にしたことは、校長達へのサポートでした。アルメニアでは校長達はみな例外なく、生徒や家族を失っていました。教員達は自身が被災者であると同時に、学校が避難所としてばかりでなく傷病者や遺体がかつぎこまれるところとなっていたことによってもトラウマを受けていました」「学校職員に学校教育以外の仕事をさせるのはよくありません。彼らに対してきちんとアフターケアをする用意がないのならなおさらです」(『災害とトラウマ』「こころのケアセンター」編(1999)47−48頁より)
このように学校の担う役割が重要なだけに、災害時に子どもたちのこころのケアを行うための支援システム・マニュアルなどを事前に整備することはもちろん、学校が避難所となった場合は地域住民ができるだけ自立的に運営して、教員の施設管理における負担を可能な限り減らすこと、避難者が学校の再開時期をしっかり見据えるようにすることが重要となります。
グラフ1 喪失との関連

グラフ1
(『災害とトラウマ』「こころのケアセンター』編(1999)15頁より)
グラフ2 母親のストレスと子どもの身体的状況
グラフ2
(『阪神・淡路大震災 そのとき学校は -検証と未来への提言-』神戸市PTA協議会復興委員会(1995)147頁より)