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8-2 発災対応型防災訓練の試み




コラム 自治と協働の防災拠点づくり [東京都練馬区]

東京都練馬区では、阪神・淡路大震災を契機に、震災対策のあり方を大きく見直しています。特に、地域の小中学校を防災拠点として、その機能・役割を明らかにし(避難拠点)、自主防災組織・PTAなど地域の様々な住民・協定団体などが、子ども・学校と一緒に地域防災に取り組む基盤ができていることが指摘できます(避難拠点運営連絡会)。そして大震災から10年近くたった今も、防災に取り組むPTAなど、市民の参加が増え続けています。
そして練馬区教育委員会では、大地震の発生を想定した画一的な「引取訓練」や「下校訓練」をやめて、各学校で行う児童生徒への教育の一環として、より実践的な学校ごとの防災教育・訓練へ踏み出しており、地域・学校間の協働の取り組みの模索も続いています。

※練馬区:人口68万人の特別区。行政区ではなく、おおむね市町村と同じ基礎自治体であるが、上下水道や消防行政の権能はもっていない。2003年時点では、常勤・非常勤をあわせた防災担当者は22人となっている。

小中学校の「避難拠点」としての位置付けと「避難拠点運営連絡会」

阪神・淡路大震災まで、大地震災害時の行動様式とされていた、「一時(いっとき)集合場所→東京都指定避難場所→避難所」という図式を読み替えて、練馬区では独自に、一時集合場所かつ避難所であり、地域の防災拠点となる「避難拠点」として区立小中学校を位置付け、そこが大火災等でもちこたえられない場合のみ、東京都指定避難場所を使用する計画へと軌道修正しています。
しかし、実際に大規模災害が起こった場合、一か所平均600人と想定される避難者に対して、区職員と学校職員による避難拠点要員だけでは対応できないことは明らかでした。実際阪神・淡路大震災では、子どもの支援と学校再開に力を注ぐべき教職員が、避難所の世話に追われてしまい、過労死するケースすら出ています。そこで練馬区では、行政による緊急対応の限界を市民に理解してもらいながら、1999年3月から、避難拠点の運営に協力する防災住民組織の学校ごとの結成を、区内103の小中学校すべてに呼び掛けています。それが「避難拠点運営連絡会」です。そして『避難拠点運営の手引き』を作成してその機能・役割を整理するとともに、各避難拠点独自の取り組みを支援しています。

行政内・地域組織間の垣根を越える

地域における、防災・救援活動においては総合的な視点が不可欠ですが、行政・学校・消防・福祉・医療等の各関係機関の連携が十分でなく、また地域サイドでも、自主防災会(自治会・町内会が基盤)・PTA・ボランティアなどの住民・市民間の連携が取れていない場合が多く見受けられます。練馬区の取り組みで注目されるのは、この行政内・地域組織間の垣根を取り払っていく努力が意識的になされている点です。
第一に、避難拠点および避難拠点運営連絡会を立ち上げていく過程で、防災課と教育委員会が一年半近くの時間をかけて十分な話し合いを行っていることが挙げられます。これによって、学校・地域がともに防災活動に取り組むことができるしっかりとした支援体制ができ、より実践的な防災訓練・防災教育に踏み出すことを可能としています。
第二に、避難拠点運営連絡会の結成を通じて、バラバラに活動を行っていた個々の防災会、PTA、そして区の協定団体等が、避難拠点を軸として協働し、学校・地域の子どもを巻き込みながら、独自の展開をする事例が出てきていることが挙げられます。地域組織間・世代間の垣根を越えての取り組みは、地域防災における実践性を高めるとともに、子ども・大人がともに地域の一員として心豊かに成長できる場となっていると言えます。
個々の避難拠点運営連絡会によって、活動の形態やその活動が活発かどうかには若干の差があるようですが、103校のうち少なくとも7割近くでいろいろな活動が活発に行われているということです。