「普段」の⼤切さ
会⻑ 鈴⽊ 政⼦
東海地震の発⽣が叫ばれはじめて間もなく、災害時に家庭の主婦にできることをみんなで学びたい。そんな切実な思いで⽴ち上げた地域の婦⼈防災クラブの活動も今年で25年目に⼊ります。10⽉には地元⾃治会と合同で⼤きなイベントも計画しており、その準備に追われていた７⽉の下旬、新潟県と福井県を中⼼とした集中豪⾬のニュースが⼤きく報道されました。
町全体が濁流の流れる川のようになり、まずその状況に圧倒されました。⽔が引くにつれて刻々と深刻さを増していく被害。テレビ画⾯から伝わるその惨状に、地震や⽕事だけが災害ではないのだと、これを対岸の⽕事として受け⽌めていてはいけないのだと、気を引き締め直していました。
ちょうどその折、⽇本防⽕協会から、本県を含む14府県の⼥性防⽕クラブ連絡協議会へ被災地への復興ボランティアを要請されました。
準備もそこそこにさっそく現地へかけつけ、福井駅から美⼭町の蔵作公⺠館までの⾞中、テレビ報道からは伝わりきらなかった被害の甚⼤さに、圧倒されてしまいました。道路は2メートルもあろうかという⼟砂に埋もれ、家の中に⼊った⼟砂は天井に届かんばかりに⾼く積み上がり、⾃然災害の猛威の⼒に⾔葉もありませんでした。
公⺠館へ着くと、愛知県の婦⼈防⽕クラブ員の⽅々がすでに到着しており、他県のクラブ員も続々と到着予定とのこと。⼼強い情報に気持ちも⾼ぶり、早速、地域の⽅のための⾷事作りにとりかかりました。ライフラインは寸断され、台所は⼟砂に埋もれている。そのような地域の⽅のために、1⾷200⼈分の⾷事を⽤意することがわたしたちの役割でした。
連⽇の猛暑の中、⼀⽇を通して復興作業に携わる⽅に作る⾷事だけに、栄養価の⾼いものを準備しようとするものの、⾁、⿂はまったく無く、調味料にも事⽋く状態でした。こんなもので満⾜してもらえるのだろうか、そんな不安を抱えながらも、特別なことができるわけではないので、普段作っているような⾷事に近くなるよう、懸命に作りました。
翌⽇、⾷事の準備の合間に記録写真を撮っていると、「お前ら、ここらのもんじゃないな。どこから来ただ」と、⾼齢の男性に声をかけられました。事情を話すと、「ああ︕それで昨⽇からちいっと変わった物が出てきたのか︕うまかったよ」と、その男性は泥と⽇焼けで真っ⿊くなった顔をほころばせ、両⼿をさしだして握⼿を求めてきました。
「今⽇も頑張っておいしい物作るからね」と微笑んでその場を後にしましたが、男性の本当に真⼼のこもった⾔葉と笑顔に、胸の熱くなる思いでした。
その⽇の⼣⾷の準備が終わったころ、次々と⾷事を取りに来る⽅が⼝々に、「昨⽇の⾷事は本当においしかったよ」と感謝やねぎらいの⾔葉をかけてくれましたし、⽐較的被害の少なかった⽅は、ナスやジャガイモ等、⾷材の差し⼊れもしてくれました。
⼟地柄の違いか、材料は同じでも味付けが違っていたことが喜ばれたことも多分にあったのでしょうが、栄養価ばかりが先に⽴つ非常⾷よりも、三⼤栄養素はあまり含まれておらず、栄養価が多少劣っているような料理でも、「普段」の味付けがこんなにも喜ばれるのかと、⼤きな発⾒をしました。
数⼈の⽅に記念写真をせがまれ年甲斐もなく気恥ずかしさでいっぱいになりながら、後ろ髪をひかれる思いで被災地を発ち、家路についてから⾊々な書物を読んでみると、⾃⾝も阪神⼤震災で被害にあわれた料理研究家の坂本廣⼦さんの⽂章に、ごくごく普通の野菜のおひたし、揚げ⿂等の配⾷に、家で待っている奥さんがどれほど喜ぶだろうと⼤粒の涙をこぼして⾷事を持ち帰った⽼⼈の話が書かれていました。
この記事を読んで、私の作業も間違ってはいなかったのだと、安堵しました。
最後になりますが、災害に遭われた⽅は，まだまだ⻑い戦いになるでしょうが、⼀⽇も早く復興できることを⼼からお祈り申し上げます。
ありあわせの⾷材で作ったものばかりで、幾分お恥ずかしい気もしますが、少しでも参考になればと思い、調理したもののいくつかを紹介します。
・シャキシャキサラダ
⾷ 材 ジャガイモ，ニンジン，タマネギ，キュウリ
作り⽅ ジャガイモ、ニンジンは細切りに、タマネギ、キュウリは細切りにして塩、胡椒、マヨネーズで和える
・タクアンの炒め物
⾷ 材 タクアン，⽣姜
作り⽅ 塩抜きしたタクアンを醤油で味付けし、⽣姜をまぶす
・ゼンマイのキンプラ風
⾷ 材 ゼンマイ，ニンジン，ピーマン，ゴボウ，シイタケ
味付け 醤油，砂糖，だしの素
・ミートボールの⾁じゃが
⾷ 材 味付けミートボール，タマネギ，ジャガイモ，ニンジン
味付け しょうゆと砂糖（ミートボールの味とよく合いました）
