我が国では毎年、台風や梅雨前線などの影響により多量の降雨があり、各地で洪水や土砂災害が発生しています。昨年は、北日本を中心として、台風第6号、第7号、第11号、第9号、第10号が相次いで接近または上陸し、大雨による河川の氾濫など、自然災害の脅威が日本列島を襲いました。
洪水
※岩手県岩泉町役場提供
平成28年8月の台風第10号による
洪水被害(岩手県岩泉町) 流域に降った大量の雨水が河川に流れ込み、特に堤防が決壊すると、流域では大規模な洪水被害が発生します。また、平常時には川遊びができるような穏やかな河川が、短期間に局地的に激しい雨が降り注ぐことによって、急激に増水して勢いを増し、氾濫して流域に甚大な被害をもたらす事例が各地で発生しています。
昨年8月の台風第10号では、北海道及び東北地方の各地で河川の氾濫が発生しました。この台風の影響で、死者23名、行方不明者4名の人的被害が生じたほか、多数の住宅被害が発生しました。
台風第10号では、指定河川以外の河川などの避難勧告等発令基準が策定されていない河川が氾濫し、多数の被害が生じました。したがって、普段流れが穏やかな河川でも、災害時には注意が必要です。また、避難準備情報の発令時に、要配慮者が避難すべき段階であることが周知できておらず、結果として高齢者福祉施設の入所者9名が犠牲になってしまいました。要配慮者は避難に多くの時間を要するため、避難先への移動にかかる時間を考慮の上、大雨等の注意報が発表された段階から早めの措置を講じる必要があります。その上で、市町村からの避難勧告等の発令の状況を注視し、災害の危険性の有無を確認することが大切です。
土砂災害
土砂災害とは、大雨や地震などが引き金となって、山やがけが崩れたり、水と混じりあった土や石が川から流れ出たりする自然災害です。主なものとして「土石流」「地すべり」「がけ崩れ」などがあります。
平成26年には、広島県広島市で大雨による土砂災害が発生し、死者76名の人的被害が発生しました。
広島土砂災害では、山沿いの住宅地で多数の被害が出たことから、山沿いの居住者等は大雨の際には、気象情報を注視し、土石流などに十分警戒する必要があります。
局地的な大雨による災害
近年は短時間に局地的に非常に激しい雨が降ることが多くあり、中小河川の急な増水、アンダーパス*の浸水等を引き起こし、車が立ち往生したり、また都市部では、床上・床下浸水などの被害を生じさせる事例が多く発生しています。
* アンダーパス:交差する鉄道や他の道路などの下を通過するために掘り下げられている道路などの部分をいいます。周囲の地面よりも低くなっているため、大雨の際に雨水が集中しやすい構造となっています。
避難勧告等に関するガイドラインの改定
昨年8月の台風第10号の災害を踏まえ、政府は避難勧告等に関するガイドラインを改定しました。具体的には、自治体が避難勧告を発令する際には、その対象者を明確にするとともに、対象者ごとにとるべき避難行動がわかるように伝達する必要があること、また、平時から居住者に対してその土地の災害リスク情報や、災害時にとるべき避難行動について周知する必要があることが盛り込まれました。
さらに、高齢者等が避難を開始する段階であることを明確にするなどの理由から、以前の「避難準備情報」という名称を、「避難準備・高齢者等避難開始」という名称に変更しました。
早めの避難が命を救う
災害発生の可能性が少しでもある場合、居住者等の安全を考慮して、市町村長から避難勧告等が発令されます。避難勧告などの発令があった場合は、すぐに安全な場所に避難しましょう。結果として災害が発生しなかったとしても、「自らの命は自らが守る」という心構えで避難することが重要です。
また、避難勧告等が出されなくても、身の危険を感じたら躊躇なく自発的に避難することが重要です。避難区域等の対象とする区域は一定の想定に基づいて設定したものであり、その区域外であれば一切避難しなくても良いというものではなく、想定を上回る事象が発生することも考慮して、危険だと感じれば、速やかに避難行動をとる必要があります。自分は自然災害に遭わないという思い込みに陥ることなく、自らの判断で避難行動をとることが原則です。
災害による被害を減らすためにできること
災害による被害を最小限にとどめるためには、地域住民の皆さん一人ひとりが災害に対して日頃から備えておくことが必要です。
都道府県や市町村では、総合防災訓練や防災に関する講演会・展示などのイベントを実施しています。また、地域の自主防災組織でも防災訓練が実施されていますので、こうしたイベントや訓練にぜひ参加して、いざという時にとるべき行動などを今一度確認してみてください。
(総務省消防庁「消防の動き 2017年5月号より」)