住警器の普及にあたっては、地域のコミュニティによる綿密・丁寧な働きかけが大きな効果を発揮するケースも多く見られます。今回は、市内のほぼ全域をカバーする大きなコミュニティである「金沢市婦人防火クラブ協議会」において、実施・推進された共同購入の事例を紹介します。
(総務省消防庁「消防の動き 2010年12月号」より)
(1)地域・取組主体の概要
金沢市婦人防火クラブ協議会は、金沢市内の62校区のうち、56校区に設置された婦人防火クラブが所属する団体である。金沢市では1校区あたり平均約20の町から構成されており、同協議会に所属している人員は5,000人を超える。
昭和56年に設立された同協議会では、これまでにも、エアゾール式簡易消火具購入の普及促進のほか、普通救命講習会や消火器取扱技術指導等、防災に関する幅広い活動を行っている。
(2)共同購入の取組概要
金沢市婦人防火クラブ協議会では、消防法の改正に伴い平成18年から住警器の設置義務化が開始されたことを受け、協議会の会長が主体となり、町会や消防団の連合会へと働きかけを実施。説明会や共同購入の実施における協力体制を整えた。また、各校区や町会の集会においても丁寧な説明会を実施し、各地域での意識啓発も積極的に行った。
説明会を実施した後は、平成18年12月頃より、婦人防火クラブごとに共同購入のチラシ配布及び購入の取りまとめを実施。平成19年の5月までに、計3,949世帯に対し、1セット3個組の住警器を4,003セット、計1万2,009個の住警器の共同購入・配布を行った。
取組主体: | 金沢市婦人防火クラブ協議会 |
人数等: | 56クラブに5,090人所属 |
消防署等: | 金沢市消防局 |
職員数: | 409人 |
地域: | 石川県金沢市(中核市) |
人口/世帯数: | 45万4,607人/18万776世帯 |
キーワード: | ●広報・周知(説明会、アンケート・回覧) ●共同購入 ●集金方法の工夫 ●設置確認(戸別訪問) ●設置支援 |
普 及 期 | 平成18年9月 町会や消防団の連合会等への協力依頼開始 |
工夫点 | |
①地域の他のコミュニティとの連携 |
展 開 期 | 平成18年12月 住警器の共同購入・配布 |
工夫点 | |
②綿密・丁寧な説明会の実施 ③共同購入による住警器の安価な購入 ④コンビニ決済によるスムーズな集金 ⑤地域ネットワークによる設置のフォロー |
(3)工夫点の紹介
斡旋活動の様子工夫点①:地域の他のコミュニティとの連携
●実施内容
金沢市婦人防火クラブ協議会では、共同購入推進を決定した後、日頃の活動におけるネットワークを活かし、同じ地域の町会や消防団の連合会に働きかけて協力を依頼。説明会や共同購入に関する協力体制を整備した。
地域内に複数のコミュニティが存在するため、特に取組初期においては、同協議会の会長が主体となり連携の調整を行った。これにより、共同購入におけるチラシ配布や取りまとめ等、後の活動全体をスムーズに進めることができた。
●ポイント
地域コミュニティが一体となり、地域の住民への周知等を行うことは、住警器の設置普及においては非常に重要な取組となる。しかしながら、地域には婦人防火クラブ、町会、消防団等、様々なコミュニティが存在することが多く、活動の内容が重複することもあり得る。
この事例においては、金沢市婦人防火クラブ協議会が主体となって取り組むことを決定した後、すぐに他のコミュニティへの協力依頼を実施している。工夫点②にも共通することであるが、これにより、金沢市全体という比較的広い地域を対象に活動した共同購入が、全体としてスムーズに進められた。
説明会の様子工夫点②:綿密・丁寧な説明会の実施
●実施内容
取組開始後、平成18年12月に各婦人防火クラブを対象に共同購入の手続き等に関する合同説明会を行った他、金沢市婦人防火クラブ協議会の会長が中心となり、町会、消防団等の各地域の様々な集会において、住警器設置普及に関する説明会を実施した。
●ポイント
工夫点①に挙げた各コミュニティの連合会のみならず、各町会、消防団にも直接訪問し、丁寧な説明会を開くことで、地域全体の意識の底上げを図っている。また、説明会を進める中では、既に町会単位等で共同購入を行っていたケースに遭遇することもあり、そうしたコミュニティとの調整を行うことができたことも、大きな効果であるといえる。
こうした綿密・丁寧な取組により、各婦人防火クラブが実施した取りまとめは、大きなトラブルもなく、成果を上げることができた。
工夫点③:共同購入による住警器の安価な購入
●実施内容
金沢市婦人防火クラブ協議会が、地元の消防機器販売協会と連携し、住警器の共同購入を行った。同協議会が取りまとめを行い、大量に発注することで、購入価格を抑えることができた。また、寝室2つ、階段1つ、合計3個は最低限必要という観点から、3個1セットでの販売を行った。
●ポイント
購入価格については、他の事例と同様、取りまとめて大量購入を行うことにより、1個あたりの購入価格を抑えることができている。
工夫点④:コンビニ決済によるスムーズな集金
●実施内容
住警器の代金を確実に集金する方法として、銀行と連携し、コンビニ決済による方法を導入した。この方法により、トラブルもなく、確実な集金を行うことができた。
●ポイント
住警器は単価が比較的高く、大量に取りまとめた際にはさらに高額な代金を扱うことになるため、確実な集金や集めた代金の管理が課題の一つとなる。
この事例においては、銀行と連携し、コンビニでいつでも振込みが行えるサービスを活用し、確実な集金を行うことに成功している。また、サービス利用の手数料については、共同購入による購入代金の値下げ分より捻出し、導入を行った。
工夫点⑤:地域ネットワークによる設置のフォロー
●実施内容
購入された住警器は、婦人防火クラブ等のネットワークを介し、各家庭へと配布された。また、配布後は、民生委員が訪問した際に住警器が設置されているかどうかの確認が行われるようにし、設置されていない場合にはその地域の婦人防火クラブ、町会、消防団等と連携して確実に設置されるようフォローを行った。具体的には、民生委員が使用するチェックシートに、住警器設置に関する項目の追加等を行った。
●ポイント
配布した住警器が実際に活用されるためには、正しい方法で設置される必要がある。この事例においては、地域のネットワークを活用し、設置のフォローまでを行っており、非常に効果的な取組である。
(4)その他のポイント等
●これまでの取組におけるノウハウの活用
金沢市婦人防火クラブ協議会が、住警器の共同購入をスムーズに進めて来ることができた背景には、これまでの取組によるノウハウの蓄積があることも挙げられる。同協議会は、木造住宅が多く、路幅が狭い箇所が多くあるという特性を持った地域において、防火への取組が必要との意識から昭和56年に結成されたコミュニティである。
今回の住警器に関する取組においては、以前に取組を行ったエアゾール式簡易消火具購入の取組における反省点も活かされている。具体的には、消火具購入の際は集金を現金で行っていたが、その際に集金に非常に多くの労力を必要とした経験を踏まえ、コンビニ決済の活用というアイデアへとつながった。
このように、長年の取組の中で得たノウハウ等を活用することも、効果的な活動展開においては重要な観点となる。
次回は、自治体やコミュニティが大きいほど、同一の取組を推進するのは難しい状況が見られるなか、市や防災協会が主体となり、市内全域で共同購入を実施した「防災協会が主体となった政令市全域での共同購入の取組(取組主体:京都市防災協会(京都府京都市))」を紹介します。
なお、本ノウハウ集は消防庁ホームページ(住宅防火情報)でもご覧いただけますので、参考としてください。〈リンク先〉http://www.fdma.go.jp/html/life/juukei.html